Friday 8 August 2014

33.新聞のコラムと世界の悲劇について。

ある朝の喧騒の中にあるアパートメントの一室で、床に数日前の新聞を敷いて、熱々のミルクティーと炙りをいれたカシミールパンをちぎりなら食べていると、ある記事が目にと飛び込んできた。この新聞はGreater Kashimirという名のスリナガルでも有名な地方紙で、日付は八月二日付けの中ほどのページに掲載されていたあるコラムが僕の目を惹いた。

『ガザのパレスチナの人々のために協力してください。

Tuesday 5 August 2014

32.アパートメント。

スリナガルのラルチョークと呼ばれるメンバザールの喧騒から逃れ、西に少しだけ歩くとカシミールの古きジェラム川が悠々と流れている。その川に沿って歩くいてゆくと、道沿いには、アイスクリーム売りの屋台、果物売りの屋台、串焼き売りの屋台。搾りたてのジュース売りの屋台。甘味処の屋台などいろいろな屋台が並ぶ。僕は昨日、生ぬるく白いそうめんのような麺と少しとろりとしたアイスクリームが入っている容器に、不思議な汁を手桶からざばっとかけたものを食べたのだが、なんてことはない味だったけれど、その後すぐにトイレに駆け込む事となった。

そんなロシアンルーレットのような通りを過ぎると、いつしかジェラム川の支流の川原にある緑色の帽子をかぶった小さなモスクのそばの橋を渡り終えて、数えること二本目の道を右折するとそこにも細い道ながら小さな商店が続いている。その中にある牛乳屋が見える。一つ高くなった古い帳場のようなところに大きな銀色の金属の入れ物がいくつか並べてあり、その中には牛乳やヨーグルトがたっぷりと入っており、それらの手の届くところに頭にちょこんとのせたイスラム帽と長い髭を蓄えた親父が群がる蝿を払いながら座っている。日本の牛乳は紙パックで一リットルサイズのをスーパーマーケットやコンビニなどで手に入れる事ができるが、ここカシミールでは各家々が持ち寄った容器(主に金属の容器)に、親父が銀色の入れ物から柄杓ですくった牛乳やヨーグルトを入れていったり、又は小さなビニール袋に牛乳やヨーグルトを入れて持っていってもらう。そんな通りからふたたび細い道に入ってゆくと、大きな金属の扉が見え、そこをくぐると三階建てのレンガ造りのアパートメントが建っている。


Sunday 3 August 2014

31.空の下のイルファン(後編)。



イルファンとクルスンは月が煌々と照らしている田園風景の中の道を歩いている。虫たちが鳴き合う声だけが聞こえる以外はとても静かな夜だ。二人は途中の大きな木立の下で休む。病院から持ち出して来たお菓子を取り出して二人で分け合う。その時白くて薄汚れている一匹の子犬が用心深げに近づいてきた。
「お前も親なし家なしか。」
そう言うとイルファンはお菓子を分け与えてあげる。子犬は尻尾を振りながら一目散にお菓子にかぶりつく。ささやかな夕食後二人はそこで朝まで眠った。辺りがまだ薄暗い朝靄の中、イルファンは起き上がりクルスンをゆすり起こす。
「朝だ。行こう。」

二人が振り返ると後ろにはあの子犬が尻尾を振って付いてきている。しだいに道からは広大な田園風景が見えなくなってくる。道は徐々に寂しげな山に中に入りつつあるも、小さな村はその途中いたるところにあり、人々が山中でも生活しているのが分かった。そしてイルファンが右手を見ると谷底に山から流れてくる清流が木々の間からちらと見えた。
「泳ごう。」
イルファンがそういうと二人は谷を下り降り、その冷たい川で水浴びをし始めた。子犬も二人の周りで遊んでいる。一ヶ月以上もまともに体を洗っていないのでとても気持ちが良さげだ。服を全て川で洗うとそれらを木の枝に掛け乾かす。イルファンとクルスンは服が乾くまで木陰で眠ったり、再び水に入ったりして過ごす。子犬も遊び疲れて木陰で眠っている。昼前に服も渇いたので、二人は子犬と共に出発する。


30.空の下のイルファン(前編)。

スリナガルは日曜日にはほとんどの店が閉まるのだが、しかしメインストリートでは、毎週大規模なフリーマーケットが開催される。生活に必要な物は大体出品されているが、中でも衣類が多く、そのほとんどは中古だ。それはパキスタン製だったり、中国製だったり、中東諸国からの物であったりする。そして各ブースを多くの人たちが取り巻き、商品を手にとって品定めをしている。

その人混みの中に混じって歩いている一人の少年が見える。彼の年は十歳ほどで、服は何日も洗っていないようで少々汚く、長らく櫛を通したあともない髪は所々ぴょんと跳ね上がっているところに小さなハンチングを被っている。そんな彼は口笛を吹きながら人だかりの出来ているブースに近づくと、一人のナップサックを背負っている青年に背後から近づく。人々が行き交う揺れに合わせても、彼は青年のナップサックに手を振れつつあたりを入れ、小型のナイフでサクッとそこに切れ込みを入れるのと同時に、すでに彼の手の中には青年のサイフが収まっている。そして仕事が終わると風のように人混みの中に消えてゆく。

ジェラム川の小さな支流のある川辺は葦で覆われており、そこに数多くの掘っ立て小屋が並んでいる。壊れかけた小さな木製の橋の下に壊れかけた小さな木製の掘っ立て小屋が建っている。ジェラム川を真っ赤に染める夕暮れ時、あのスリの少年がその壊れかけた小屋に戻ると、彼の妹が待っていた。
「夕食はアイスクリームとパンに串焼きの肉だ。」
妹はアイスクリームに飛び付くと言う。
「イルファン、シュクリア(ありがとう)、おいしそうなアイスクリームと肉。」
「クルスン、今日は意外な収入が入ったので特別だ。」
オイルランプの回りに集まる虫たちを手で払いのけながら串焼きにかぶりつくとイルファンはそう言った。夕食後、土くれにシートを敷いただけの寝床に入ると二人は眠る。



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